
お休みの日に、みんなで楽しく遊園地へ! 苦手だけど、がんばってジェットコースターに乗っていた三風は乗り物酔いでヘロヘロに……。休憩している三風へ「にとちゃん!」話しかけてきた、小さな男の子。この子、もしかして、二鳥ちゃんの弟!? とんでもない事態のいっぽうで、別行動していた一花チームは……?
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キャラクター紹介
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10 そのころ、アクティブチームは
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お化けやしきから出てきたら、外の光がまぶしくて、うち・二鳥は目を細めた。
「あはははっ、もぉ、こわかったぁ~」
「ほんと、本格的だったな~」
目の前では、杏(あん)ちゃんと湊(みなと)くんが、キャーキャーはしゃいでる。
杏ちゃんは、時々湊くんに、わざとらしくひっついたりして楽しそう。
ひょっとして、湊くんに気があるんやろか?
でも、
「杏ってそんなこわがりだっけ? 昔、ふざけてお化け役の人にタックルして、おこられたことあったのに」
「そ、そんなの、昔の話でしょ~!」
なんて言われたり言いかえしたりして、雰囲気は相変わらずの幼なじみ、って感じや。
「はぁ……」
悪いけど、うちは全然、はしゃぐ気になれへん。
お母ちゃんとお父ちゃん、それにあゆむが、この遊園地のどっかにおるやなんて。
OHSAKAホールディングスが遊園地のスポンサー会社になってるって知ったときから、イヤな予感はしてたんや。
OHSAKAホールディングスって、お父ちゃんのつとめ先の会社やから。
でも、まさかほんまに遊園地の招待券をもらって、遊びに来てるとは……。
……あ、そっか。
お母ちゃんも、お父ちゃんも、あゆむも、今は関東に住んでるんやっけ――。
――「お父ちゃんな、春から関東に転勤になったんや。せやから、二鳥は中学の寮に入り」
あかん……。
あのときのこと、思いだしたら、気がめいりそうや。
うちは頭を軽くふり、適当に笑顔を作って、湊くんたちに言うた。
「ごめんっ、うちもやっぱり、今からのんびりチームに行くわ」
「えっ?」
「具合が悪いの?」
湊くんに聞かれて、うちは、「ううん」と短く返事。
すると、杏ちゃんが首をかしげた。
「二鳥ちゃん、大丈夫? なんかさっきから、ボーっとしてない?」
「せやねん。こわい乗り物乗りすぎて、つかれたんやろか? もう歳やなぁ」
お年寄りみたいなこと言うてみたら、二人はちょっと笑ってくれた。
「そっか、それじゃ、二鳥さん、気をつけてね」
「あ、ナオと四月さんがどんな様子か、あとで報告してちょうだい」
「まっかしとき~」
手をふって二人と別れて、一人になったら、
「はー……」
なんや自分のものとは思えんようなため息が出た。
のんびりチームに合流する気なんか、初めからない。
だれかから連絡が来るのもイヤで、スマホの電源は切ってしまってる。
うちは遊園地の中をあてもなくぶらついた。
自然に、足は人のいないほうへ、いないほうへと向いていく。
そうや。帰る時間になるまで、だれとも出会わへん場所にかくれてればええんや。
そしたら、お母ちゃんともお父ちゃんとも、顔を合わさんですむ。
あゆむは……。
あゆむとは、少し、会ってみたい、かな。
あゆむ、元気にしてるかな。
どれくらい大きくなったやろ。話す言葉は増えたかな。
そんなことを考えていたとき。
――ピンポンパンポーン!
園内に放送が入った。
――ご来場ありがとうございます。皆さまに、迷子さんのおよびだしを申しあげます。オレンジ色のTシャツを着た、池谷歩武くんとおっしゃる、三歳くらいの男の子をお見かけの方は、インフォメーションセンター、もしくはお近くのスタッフまでご連絡ください……
えっ?
「あゆむ……!?」
足がピタリと止まり、声がもれた。
聞きまちがいやない。
迷子よびだしされてんのはあゆむや。
なんで? あゆむ、三風ちゃんといっしょにおるんとちゃうの?
一体、何が起きてるんや――。
「二鳥ちゃん!」
声にハッとふりむくと、そこには三風ちゃんが、息を切らして立っていた。
「二鳥ちゃん、あゆむくん、迷子になっちゃったの……!」
「ま……迷子て、どういうこと? あゆむ、三風ちゃんがなんとかしてくれてるとばっかり……」
「本当にっ……本当にごめんなさいっ。ちょっと目を離したスキに、あゆむくん、いなくなっちゃって……わ、私のせいでっ――」
自分とそっくりな声で、その言葉を聞いたとき。
頭の中で、記憶のフタがパチンと開く音がした。
――「うちのせいでっ……うちがちゃんと見てなかったせいでっ……ごめんなさい……!」
「あ…………っ」
思いだしたくなかった思い出が、黒いカゲになって、次々と、立ちのぼってきて――。
「二鳥ちゃん、あゆむくんをさがそうよ」
「イヤや!!」
反射的に、うちはさけんでいた。
「だってうちは、あの人らに捨てられたんや!」
言うが早いか、うちは三風ちゃんに背中を向け、ダッ、とかけだした。
「二鳥ちゃん!」
三風ちゃんの声が追いかけてきたけど、知らん、知らん、知るもんか。
現実全部から逃げたくて、非現実的な遊園地の中を、風のように走りぬける。
七色の階段を一段飛ばしで下って。
ローズガーデンのバラのアーチをくぐって。
ポップコーン屋さんの角を曲がった、そのとき。
「つかまえた!!」
「うわあぁっ!?」
ものかげから、いきなり人が飛びだして――!
……って、一花かい!
逃走失敗。うちは、一花にがっちりだきすくめられてしまった。
「話は三風から聞いたわ。……二鳥。捨てられたって、どういうことなの?」
息が切れて、のどの奥が、ぎゅっとしぼりあげられたように痛い。
これって、そのまま心の痛みなんやろうか。
一花にだきしめられたまま目をつむると、まぶたのウラで、あわい光がチカチカ泳いだ。
カッとなっていた頭が、だんだん冷えていくのを感じる。
「ハァ……ハァ……に……二鳥ちゃん、一花ちゃん……」
背中で三風ちゃんの声。
ようやく追いついてきてくれたみたいや。
うちは一花と三風ちゃんに支えられながら、ベンチにこしを下ろす。
すぐ近くには噴水があって、すずしい音がたえまなく鳴っていた。
もう、逃げまわる気力も体力もない。
今までずっとナイショにしてたけど……言わなあかんときが、来てしまったんやな。
「……全然楽しゅうない話やけど、聞いて……」
うちの過去に、何があったのかを。
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