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注目シリーズまるごとイッキ読み!『四つ子ぐらし④ 再会の遊園地』第10回 そのころ、アクティブチームは


お休みの日に、みんなで楽しく遊園地へ! 苦手だけど、がんばってジェットコースターに乗っていた三風は乗り物酔いでヘロヘロに……。休憩している三風へ「にとちゃん!」話しかけてきた、小さな男の子。この子、もしかして、二鳥ちゃんの弟!? とんでもない事態のいっぽうで、別行動していた一花チームは……?
つばさ文庫の大人気シリーズ第4巻が、期間限定でまるごと読めちゃうよ!

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10 そのころ、アクティブチームは

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 お化けやしきから出てきたら、外の光がまぶしくて、うち・二鳥は目を細めた。

「あはははっ、もぉ、こわかったぁ~」

「ほんと、本格的だったな~」

 目の前では、杏(あん)ちゃんと湊(みなと)くんが、キャーキャーはしゃいでる。

 杏ちゃんは、時々湊くんに、わざとらしくひっついたりして楽しそう。

 ひょっとして、湊くんに気があるんやろか?

 でも、

「杏ってそんなこわがりだっけ? 昔、ふざけてお化け役の人にタックルして、おこられたことあったのに」

「そ、そんなの、昔の話でしょ~!」

 なんて言われたり言いかえしたりして、雰囲気は相変わらずの幼なじみ、って感じや。

「はぁ……」

 悪いけど、うちは全然、はしゃぐ気になれへん。

 お母ちゃんとお父ちゃん、それにあゆむが、この遊園地のどっかにおるやなんて。

 OHSAKAホールディングスが遊園地のスポンサー会社になってるって知ったときから、イヤな予感はしてたんや。

 OHSAKAホールディングスって、お父ちゃんのつとめ先の会社やから。

 でも、まさかほんまに遊園地の招待券をもらって、遊びに来てるとは……。

 ……あ、そっか。

 お母ちゃんも、お父ちゃんも、あゆむも、今は関東に住んでるんやっけ――。

 ――「お父ちゃんな、春から関東に転勤になったんや。せやから、二鳥は中学の寮に入り」

 あかん……。

 あのときのこと、思いだしたら、気がめいりそうや。

 うちは頭を軽くふり、適当に笑顔を作って、湊くんたちに言うた。

「ごめんっ、うちもやっぱり、今からのんびりチームに行くわ」

「えっ?」

「具合が悪いの?」

 湊くんに聞かれて、うちは、「ううん」と短く返事。

 すると、杏ちゃんが首をかしげた。

「二鳥ちゃん、大丈夫? なんかさっきから、ボーっとしてない?」

「せやねん。こわい乗り物乗りすぎて、つかれたんやろか? もう歳やなぁ」

 お年寄りみたいなこと言うてみたら、二人はちょっと笑ってくれた。

「そっか、それじゃ、二鳥さん、気をつけてね」

「あ、ナオと四月さんがどんな様子か、あとで報告してちょうだい」

「まっかしとき~」

 手をふって二人と別れて、一人になったら、

「はー……」

 なんや自分のものとは思えんようなため息が出た。

 のんびりチームに合流する気なんか、初めからない。

 だれかから連絡が来るのもイヤで、スマホの電源は切ってしまってる。

 うちは遊園地の中をあてもなくぶらついた。

 自然に、足は人のいないほうへ、いないほうへと向いていく。

 そうや。帰る時間になるまで、だれとも出会わへん場所にかくれてればええんや。

 そしたら、お母ちゃんともお父ちゃんとも、顔を合わさんですむ。

 あゆむは……。

 あゆむとは、少し、会ってみたい、かな。

 あゆむ、元気にしてるかな。

 どれくらい大きくなったやろ。話す言葉は増えたかな。

 そんなことを考えていたとき。

 ――ピンポンパンポーン!

 園内に放送が入った。

 ――ご来場ありがとうございます。皆さまに、迷子さんのおよびだしを申しあげます。オレンジ色のTシャツを着た、池谷歩武くんとおっしゃる、三歳くらいの男の子をお見かけの方は、インフォメーションセンター、もしくはお近くのスタッフまでご連絡ください……

 えっ?

「あゆむ……!?」

 足がピタリと止まり、声がもれた。

 聞きまちがいやない。

 迷子よびだしされてんのはあゆむや。

 なんで? あゆむ、三風ちゃんといっしょにおるんとちゃうの?

 一体、何が起きてるんや――。

「二鳥ちゃん!」

 声にハッとふりむくと、そこには三風ちゃんが、息を切らして立っていた。

「二鳥ちゃん、あゆむくん、迷子になっちゃったの……!」

「ま……迷子て、どういうこと? あゆむ、三風ちゃんがなんとかしてくれてるとばっかり……」

「本当にっ……本当にごめんなさいっ。ちょっと目を離したスキに、あゆむくん、いなくなっちゃって……わ、私のせいでっ――」

 自分とそっくりな声で、その言葉を聞いたとき。

 頭の中で、記憶のフタがパチンと開く音がした。

 ――「うちのせいでっ……うちがちゃんと見てなかったせいでっ……ごめんなさい……!」

「あ…………っ」

 思いだしたくなかった思い出が、黒いカゲになって、次々と、立ちのぼってきて――。

「二鳥ちゃん、あゆむくんをさがそうよ」

「イヤや!!」

 反射的に、うちはさけんでいた。

「だってうちは、あの人らに捨てられたんや!」

 言うが早いか、うちは三風ちゃんに背中を向け、ダッ、とかけだした。

「二鳥ちゃん!」

 三風ちゃんの声が追いかけてきたけど、知らん、知らん、知るもんか。

 現実全部から逃げたくて、非現実的な遊園地の中を、風のように走りぬける。

 七色の階段を一段飛ばしで下って。

 ローズガーデンのバラのアーチをくぐって。

 ポップコーン屋さんの角を曲がった、そのとき。

「つかまえた!!」

「うわあぁっ!?」

 ものかげから、いきなり人が飛びだして――!

 ……って、一花かい!

 逃走失敗。うちは、一花にがっちりだきすくめられてしまった。

「話は三風から聞いたわ。……二鳥。捨てられたって、どういうことなの?」

 息が切れて、のどの奥が、ぎゅっとしぼりあげられたように痛い。

 これって、そのまま心の痛みなんやろうか。

 一花にだきしめられたまま目をつむると、まぶたのウラで、あわい光がチカチカ泳いだ。

 カッとなっていた頭が、だんだん冷えていくのを感じる。

「ハァ……ハァ……に……二鳥ちゃん、一花ちゃん……」

 背中で三風ちゃんの声。

 ようやく追いついてきてくれたみたいや。

 うちは一花と三風ちゃんに支えられながら、ベンチにこしを下ろす。

 すぐ近くには噴水があって、すずしい音がたえまなく鳴っていた。

 もう、逃げまわる気力も体力もない。

 今までずっとナイショにしてたけど……言わなあかんときが、来てしまったんやな。

「……全然楽しゅうない話やけど、聞いて……」

 うちの過去に、何があったのかを。


第11回へつづく

書籍情報


作: ひの ひまり 絵: 佐倉 おりこ

定価
814円(本体740円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046319067

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